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東京未来大学の井梅由美子准教授にインタビュー!スポーツの習い事で親はどう関われば良い?

近年、子供たちがスポーツを習い事として取り入れるケースが増えています。

子供の習い事に対して、「やるからには上達してもらいたい」「子供の習い事のために、親にできることは何でもしたい」と熱心に取り組む親御さんも多いでしょう。しかし実は、子供に熱心な親御さんほど、誤った接し方をしてしまっているかもしれません。

今回、お話を伺ったのは、臨床心理学の専門家で「子育て支援」や「地域スポーツ」に詳しい、東京未来大学准教授の井梅由美子さん。

スポーツの習い事が与える影響や、子供の習い事の選び方、子供が習い事を辞めたいと言った時の対応方法など、子供の習い事に親がどう関わっていくべきかを伺いました。

Profile

東京未来大学こども心理学部こども心理学科心理専攻 准教授
井梅 由美子(いうめ ゆみこ)

お茶の水女子大学大学院人間文化研究科博士後期課程単位取得退学。専門は発達臨床心理学。臨床心理士、公認心理師。
精神科クリニックや小児科にてカウンセラーとして勤務。2児の母。
著書に『ジュニアスポーツコーチに知っておいてほしいこと』(共編著、勁草書房、2018)、『スポーツで生き生き子育て&親そだち』(共編著、福村出版、2019年)、『保育と子ども家庭支援論』(共著、勁草書房、2020年)など。

東京未来大学プロフィール

目次

外遊びの減少や子育て環境の変化で習い事をする子供が増加

――先生の研究テーマ教えてください

私の専門は臨床心理学や発達臨床心理学です。臨床心理学とは、カウンセリングなど心の悩みや問題に対する治療に関する心理学になります。臨床心理士として、精神科クリニックや小児科でカウンセリングを行ってきました。中でも、子育てに不安を抱えていたり、子育てへの不安から虐待などの不適切な療育をしてしまったりするお母さんたちへの支援を目的として、「子育て支援」や「親子関係」といったテーマで研究をしてきました。

そうした中、最近では「子どものスポーツ環境」テーマで共同研究をしています。特に、日本でよく見られる、放課後や土日で学校を使って活動するスポーツ少年団のような「地域スポーツ」に対して、大人がどう関わるべきかを研究をしています。

――近年では、スポーツの習い事をする子供が増えていると聞きます。

そうですね。例えば、ベネッセさんが行っている習い事に関する大規模調査ですと、ここ10年ほどは、習い事をしている小学生の割合は上下に変動しているもののそれほど大きな変化はないのですが、私たちが子どもだった30年ほど前と比べると、スポーツの習い事をしている小学生の割合はやはり増えていると感じます。2024年度の調査では(※)、有料の習い事をしている小学生は7割強との結果が得られており、習い事のトップは「水泳」とのことです。男女を比較すると、男児の方が、スポーツに関する習い事がやや多く、1位の「水泳」の他、3位に「サッカー・フットサル」が入っています。また、女子では「ダンス」が6位に入っており、女子のスポーツ系の習い事として人気です。また、保護者世代と比べると習い事の種類が多様化していることが特徴として述べられています。

※小学生の習い事調査
【2024年版】小学生に人気の習い事ランキング!平均費用や習っている数も紹介
調査対象:小学1年生~6年生の子どもとその保護者3,096組 子どもの性別 男子:1,548人 女子: 1,548人
調査期間:2024年2月28日~29日
調査方法:インターネットでのアンケート調査
調査項目:子どもの習い事の現状や意識、保護者の幼少期の習い事など

――30年前と比べて多くの子供たちがスポーツの習い事をするようになったのは、どういった背景があるのでしょうか?

現在は、公園や空地などといった、子供たちが自由に体を動かせる場が少なくなっているため、習い事が体を動かす場として機能しているのかもしれません。外遊びできる場があって十分に体を動かせていれば、あえてスポーツをしなくてもよいのかもしれませんが、現在では、例えば、遊具のある公園ではボール遊びは禁止といった制約をされることもあります。

そうした中で、制限なく体を動かして運動をしたいとなれば、習い事という選択肢がおのずと出てくるのかもしれません。そして、近年では習い事の場が充実していますから、そのことも、習い事をする子供が増えている理由の一つとしてあると思います。

加えて、女性の社会進出も考えられる大きな要因です。近年、子育て世帯の共働きは増加しています。女性の社会進出によって、金銭的な余裕が生まれたり、一方で放課後の子供の居場所として、習い事が選ばれるなど子育て環境が大きく変化し、習い事をさせる親が増えていることもあるのだと考えています。

――子供がスポーツの習い事をすることで、どんなメリットがありますか?

まず、体を動かす場が提供されるというメリットがありますね。先ほど述べたように、自由に体を動かせる場が減少していることから、放課後のスポーツ活動は子どもたちにとって体を動かす貴重な場になります。現在の子どもたちの体力や運動能力が低下しているとも言われますが、一方で、週当たりの運動時間数によって、体力・運動能力の二極化が起こっていることも指摘されています。また、地域スポーツでは、学年を超えた関わりを持てたり、学校の先生とは違う地域の大人とのふれあいがあったりする機会にも恵まれています。その中で挨拶などのコミュニケーションや礼儀、社会のルールを学べるのもメリットです。

小学校の高学年くらいの仲間関係の特徴として「ギャングエイジ」という言葉があります。ギャングエイジは、年齢の近い同性だけで集団を形成し、教師や親よりも友だちを大切にする時期のことです。こうした仲間関係を通して、集団行動といった社会性や協調性を身につけたり、親からの独立心が芽生えたり、さまざまな成長が促されることから、子供たちにとって大切な時期だと言われているのです。

しかしながら現代では、そうした集団遊びをする機会は減っています。ですので、地域スポーツに参加することによってギャングエイジのような仲間関係を体験することにもつながり、さまざまな成長を促す貴重な機会になっていると思います。

本人の興味ややる気を尊重することが大切

――子供がスポーツの習い事を選ぶ際に、親はどのように関わると良いでしょうか?

本人の興味や意欲を尊重し、やりたいと思える習い事を一緒に見つけていく姿勢が大事だと思っています。幼児期の発達課題としては、主体性を持たせることが大切だと言われています。

本人が興味のあることに熱中し、のめり込む体験をすることで、一つの物事に集中する力がつくのです。ですので、子供が自分でやりたいと思えることを見つけられるようサポートするのが良いと思います。

――現在では、早期教育などを検討する親御さんも多いと思います。井梅先生は早期教育についてどうお考えでしょうか?

子供に早いうちから何かを学ばせたい、との考えは、トップアスリートの活躍などから「早く始めるほど良いのではないか」「早いうちから一つの種目に絞ったほうが良いのではないか」と思ってしまうからではないでしょうか。しかしながら、子どもの成長にあわせて、適切な時期に適度な運動量でスポーツを行うことが大事です。身体が未成熟な幼少期の子どもたちに、早い時期から過度な専門トレーニングをすることは、オーバーユースによるスポーツ障害の可能性を高めるなど、問題も多いことが指摘されています。(詳しくは、大橋恵・藤後悦子・井梅由美子著『ジュニアスポーツコーチに知っておいてほしいこと』勁草書房, 2018)

日本では、幼少期からサッカー、野球など一つの種目に特化してスポーツを行う傾向が強いですが、例えばアメリカでは、シーズン制を採用しており、冬から春はバレーボール、秋はサッカーなど、スポーツの種類を変えて活動します。これは、早期の過度な専門トレーニングの予防にもなり、また、この時期の子どもたちにとって、さまざまな身体の動きを獲得することは大切であるため、複数のスポーツを行うプログラムになっているのです。そういう意味で、小さいうちは、一つの種目に特化して早期教育を行うより、複数のスポーツを取り入れることを推奨します。昨今では、日本でも多種目をしたほうがよいということも意識され始めていて、まだ数は少ないとはいえ、多種目のスポーツを行えるスポーツクラブも増えてきているんですよ。

また、早い時期から特定の技能を身につけさせたり、成果を求めすぎたりすると、初期には能力の向上が見られますが、それがずっと続くとは限りません。思うようにいかなくなったとき、1つのことに特化しすぎていると、目的を見失ってバーンアウト(燃え尽き現象)状態となってしまうこともあります。

繰り返しになりますが、幼少期は、本人の興味ややる気が一番大切な時期です。子どもは興味のないことには当然、見向きもしませんし、興味のないことに努力をさせることはもっと困難です。親の意向で強制的にやらせてしまうと、子どものやる気のなさにイライラしてしまったり、せっかく始めたのだから、と何とか興味が向かうように親が頑張ったり、親子共に疲れ果ててしまう、なんてことにもなりかねません。

子供が求めているのはアドバイスではなく精神的なサポート

―子供にスポーツを習わせる上で、親はどのような態度で接していけばいいのでしょうか?

スポーツにおける親の接し方については、私たちが研究において扱っている分野です。

海外では、「スポーツ・ペアレンティング」という言葉もあるのですが、これは、子どものスポーツ場面にまつわる子育てスタイルや、子どもへの関わり方のことで、さまざまな研究がなされています。私たちの研究でも、このスポーツ・ペアレンティングについて、検討しているのですが、親が具体的な行動を指示する「支配的対応」は、子どものスポーツへのモチベーションを低めることが分かっています。

また、他の調査では、地域スポーツをやっている子供たちに、親と指導者それぞれに対して、やってほしいこととやってほしくないことを聞きました。

その結果、親にやってほしくないことの上位には、行き過ぎた指導や介入、口出しが入っていて、特に年齢が上がるほど、過剰な干渉を嫌がる傾向が高いとわかりました。一方で、やってほしいことの中で挙がったのは、精神的サポートです。こちらも同様に、年齢が上がるほど、精神的なサポートを求める傾向があるとわかりました。

子供たちは、指導者に対して具体的なアドバイスや練習方法の工夫を望む一方、親に対しては、具体的なアドバイス等は求めていないのです。ジュニア期のスポーツの習い事では、送迎をしたり、弁当や道具の準備、試合での応援やサポートなど、さまざま一緒に関わっていることから、熱が入りやすく、いろいろとアドバイスをしたくなってしまうことが多いと思います。

しかし、調査結果からわかるように、子供たちはそれらを望んでいない。ですので、何か口出しをしたくなったとしてもグッとこらえていただき、肯定的な応援やポジティブな対応で精神的なサポートをしていくことが大切だと思います。

――とはいえ、親が口出しをしたくなってしまう気持ちもわかります…

そうですね。私自身も子供が地域スポーツでサッカーをしていて、練習や試合を見る機会があるのですが、やはり見ていると口出ししたくなるので、気持ちはとてもわかります。勝ち負けがあるスポーツだと、その傾向がより顕著です。

特に、その種目の経験者であれば、もっとこうした方がいいとわかると思うので、アドバイスしたくなるのだと思います。ただ、子供はそういった具体的なアドバイスよりも、精神的なサポートを求めているのです。わかっているので言わないでくれってことなんでしょうね。

――確かにそうですね。

また、子供に対して過干渉になってしまう理由の一つに、「同一化」が関係しているというデータが出ています。同一化とは、子供の失敗を自分のことのように思って落ち込んでしまうなど、子供とうまく距離を取れていない傾向を指します。そのような人ほど、子供に過剰な期待や過干渉をしてしまい、スポーツでいえば、練習をさらにやらせようとしたり、子供の希望を無視して高い成果を望んだりするようです。

さらに、同一化の傾向は男女で比べると女性の方が高いという研究結果が出ています。子供の失敗が自分事のようにドキドキしてしまったり、不安になったりするお母さんも多いかもしれません。ですが、子供のことを我が事化してしまうと、子供が望まないことを押し付ける結果となってしまうこともあります。そのため、子供は子供と一線を引いて、過度に期待しないことが大切だと思います。

生涯を通じて楽しめるスポーツは大きな財産

―子供が習い事を「やめたい」「行きたくない」と言っている場合には、どのような対応をするのが良いでしょうか?

習い事の辞め時は、難しい課題ですね。特に年齢が低い場合ですと、ちょっとでも嫌なことがあった際に、すぐに辞めたくなってしまうことはあると思います。ですので、「やめたい」「習い事に行くのが嫌だ」と言い出した時に、まずはどうして嫌なのかしっかりと耳を傾け、話し合うことが大切です。その結果、これ以上続けていても、本人のためにならないと判断できる場合は、辞める選択肢があるかもしれません。

例えば、スイミングを習っている子供が習い事を辞めたいと言い出した場合によくあるのが、コーチとの相性が悪く、思っていることが言えないといった問題や、冬にはプールが寒くて辛いと思っている状況などです。対策をすることで解決できる問題なのか、あるいは、本当に興味がなくなっている状態なのかを見極めることが必要だと思います。子供が嫌だと思っていることを回避できるのであれば、それを提案してあげるのが良いですね。

習い事を辞める際の問題は、共著の『スポーツで生き生き子育て&親育ち 子どもの豊かな未来をつくる親子関係』(福村出版, 2019)という本の中でも詳しく解説しているので、参考にしていただければと思います。

―最後に子供にスポーツの習い事をさせている・させたいと考えている保護者の方へメッセージをお願いします。

まず、スポーツは子供の成長にとって非常に重要なものです。また、私たちが年を取っても健康であるためには生涯スポーツが大切だと言われていますが、その出発点は子供のときのさまざまなスポーツ体験にあります。

場合によっては、勝敗や上手くなることにこだわることもあるかもしれませんし、それが大きな達成感に繋がることがあると思いますが、一番大切なのは本人が楽しめること。生涯を通してスポーツを楽しめることは財産だと思うので、親は、少しでも楽しいスポーツの記憶を作る手助けができれば良いのかなと思います。

子供がさまざまな可能性の中から、今後の生活で生きがいや楽しみを見つけられることが、習い事の本来の目的だと思っています。ですので、そういうものを一つでも増やせたらいいなという気持ちで子供と関われれば、親子共々ストレスフリーでスポーツの習い事ができるのではないでしょうか。

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