2020年の小学校を皮切りに、プログラミング教育の必修化が順次行われました。
小学校では簡単なことしかしない、重要さがわからない、必要ないのではという声もありますが、プログラミング教育の導入の目的は、高度なIT化が進む社会を生き抜くために、イノベーションを起こせる人材を育てるためです。
プログラミング教育必修化に伴い、プログラミングスクールの人気も年々上昇傾向とのこと。
この記事では、プログラミングが必修化された理由や背景、そのメリットなどを解説します。
将来はIT人材不足!プログラミングが必修化された背景
現代社会は、情報化とグローバル化の波に飲み込まれ、かつてない速さで変化しています。
人工知能(AI)などの技術革新は、私たちの生活や仕事の形を大きく変え、今後もその勢いは増していくでしょう。将来的には、今ある仕事の半数近くが自動化されるという予測もあります。
「今学校で習っていることが将来的に役に立たなくなるのではないか?」「人間の仕事がAIに奪われるのではないか?」という不安の声も聞こえます。
そのような中、IT機器を使いこなせるスキルだけではなく、変化の激しい社会を生き抜くために、自ら考え、問題を解決し、新しい価値を生み出すことができる人材が求められています。
IT化社会に対応できる人材を育てるため
プログラミングは、世界中の人々と繋がるための共通言語です。将来的に、世界で活躍できる人材を育成するために重要なスキルです。現在、世界中がIT化に向かって進んでいます。プログラミングスキルは、将来のあらゆる職業で必要となる必須スキルです。
また、日本は深刻なIT人材不足に直面しています。
若年層の人口減少に伴って、2019年をピークにIT関連産業 への入職者は退職者を下回り、IT人材は減少に向かうと予想されている。また、IT人材の平均年 齢は2030年まで上昇の一途をたどり、高齢化が進展することも予想されている。その一方で、IT 需要予測から推計されるIT人材需要との需給ギャップから2030年までのIT人材の不足数を推計 すると、労働集約業態となっている日本のIT人材の低生産性を前提とすれば、将来的に40~80 万人の規模で不足が生じる懸念があることも試算された。
経済産業省:IT人材育成の状況等について
経済産業省の試算では、見通しは明るくありません。プログラミング教育の必修化によって、将来の不足を補い、国際競争力を高めることを目指しています。
文部科学省がプログラミングを必修化する3つの目的やねらい
文部科学省が推進するプログラミング教育の必修化は、単に技術習得を目的としたものではありません。将来の社会を生き抜くために必要な3つの力を育むことを目的としています。
それぞれ順に解説します。
プログラミング的思考を養うため
現代社会は、変化の激しいVUCA(※1)時代と呼ばれています。このような時代を生き抜くためには、単に知識を詰め込むだけではなく、自ら考え、問題を解決し、新しい価値を生み出すことができる人材が必要となります。
プログラミングを通して、問題を論理的に分析し、段階的に解決していく「プログラミング的思考」を養うことができます。これは、将来どのような職業につく場合にも役立つ、汎用性の高いスキルです。
(※1)VUCAとはVolatility (変動性)・Uncertainty (不確実)・Complexity (複雑性)・Ambiguity (曖昧性) が飛躍的に高まった状況を示す言葉
情報社会がITによって支えられていることに気づく
現代社会は、インターネットやスマートフォンなどの情報技術によって支えられています。しかし、情報化社会の恩恵を受けるためには、ITの仕組みや情報モラルについて理解し、情報リテラシーや情報活用能力を身につけることが大切です。
プログラミング教育を通して、情報社会におけるITの役割や情報モラルについて学ぶことができます。また、実際にプログラミングを通して情報機器を操作することで、情報リテラシーや情報活用能力を向上させることができます。
各教科での学びを確実なものとする
プログラミングを各教科と関連させて学習することで、より深い理解と学びにつなげることができます。
例えば、算数の授業では、プログラミングを使って図形を描いたり、計算したりすることができます。理科の授業では、プログラミングを使って電気の利用について学ぶことができます。このように、プログラミングは各教科の学びを活性化し、より確実なものにする効果があります。
プログラミングの必修化いつから?具体的な内容は?
小学校・中学校・高校でのプログラミング教育が順次必修化されました。ここでは各教育課程における必修化の時期と、実施されている授業内容について解説します。
それぞれ順に解説します。
小学校は2020年度から必修化され思考を身につける段階
2020年から必修化された小学校プログラミング教育ですが、「プログラミング」という科目が新設されたわけではありません。論理的思考力、創造性、問題解決能力などを育む「プログラミング的思考」を身につけることが目的とされています。
従来の授業(国語、算数、理科、社会など)の中で、プログラミングを学びます。具体的には、視覚的にわかりやすい「スクラッチ」というビジュアルプログラミングなどを使用し、算数の授業でプログラミングを使って図形を作図したり、音楽の授業でリズムを作ったりするなど、様々な教科でプログラミングと関連付けながら学習します。
また、必ずしもパソコンを使うわけではありません。カードやブロックを使ったゲームなど、ICT機器を使わないアンプラグド・プログラミングを通して、論理的思考や問題解決能力を養うこともあります。
中学校は2021年度から必修化され課題解決を目的とする
2021年、中学校の技術・家庭科に「情報の技術」が正式科目として追加され、プログラミング教育が必須化されました。小学校でのプログラミング教育が論理的思考育成を主眼としているのに対し、中学校のプログラミング教育では、情報通信の仕組みを理解した上で活用しながら、設定した課題を解決することが求められています。
従来の「プログラムによる計測・制御」の枠を超え、「ネットワークを利用した双方性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決」が推進されています。具体的には「チャットを応用して学校や社会の問題を解決」したり、「地図コンテンツのプログラミングで防災に関する問題を解決」したり、より実践的な内容となっています。
高校は2022年度から必修化されより高度な技術にチャレンジ
2022年、高校の情報科に「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」という新科目が導入され、プログラミング教育が本格化しました。従来、情報科を選択しなければプログラミングを学ぶ機会が限られていたため、多くの生徒がプログラミングに触れることなく卒業していました。
「情報Ⅰ」では、プログラミング言語、ネットワーク構築、データベースの基礎知識などを学習します。具体的には、以下のような内容が扱われます。選択科目の「情報Ⅱ」では、「情報Ⅰ」で学んだ基礎知識を活かして、情報システム、情報コンテンツ、データサイエンスなどを学びます。将来の進路や興味に合わせて、より専門的な知識を習得することができます。
HTML、CSS、JavaScriptを使って、簡単なWebサイトを作成したり、Pythonなどのアプリ開発にも利用されるプログラミング言語を用いた授業も行われています。
子どもにプログラミングは必要性ない?
小学校では難しい授業はしないし、そもそもそ親世代はプログラミングを必修科目として学んでいないため、重要性がわからないという意見もあります。ここでは小さな頃からプログラミングに触れるメリットを紹介します。
それぞれ順に解説します。
2025年の大学入学共通テストから「情報Ⅰ」追加
2025年度の大学入学共通テストから、新しく「情報Ⅰ」が加わることが決まりました。どのような問題が出るのか不安になっている受験生もいると思いますが、大学入試センターは『情報Ⅰ』の試作問題を公表しています。
現状では具体的なプログラミングやアルゴリズムを問うものではなく、SNSやWebサイトなどを利用する際の注意点や、情報の信ぴょう性について理解しているかなど、身近な問題を題材にしています。一部の大学ではまだ配点科目にしていなかったり、選択科目にとどめています。
しかし、将来的にはより難解な試験となることも予想されるため、子供のうちからプログラミングに慣れ親しんでおいた方が無難です。
年収が高い!将来求められる人材に
プログラミングスキルは、IT業界だけでなく、あらゆる分野で活かすことができます。近年注目されているAI、ビッグデータ、IoTなどの技術も、プログラミングスキルが基盤となります。
将来の年収の面でも、有利になる可能性があります。スキルやキャリアなどで違ってきますので、一概には言えず一例となりますが、ITエンジニアは経済産業省の「IT人材に関する各国比較調査」によると、平均年収592万円。日本人の平均年収458万円(令和4年・国税庁調査)よりも、100万円以上多い結果となっています。
将来、ITの人材不足予測もあり、より社会から求められることが予想されます。
論理的思考や想像力を養う
小学生の段階からプログラミングに触れることで、論理的思考力や問題解決能力などの基礎的なスキルを身につけることができます。これらのスキルは、将来の学習や社会生活においても非常に重要です。これは内閣府が提唱するSociety 5.0の実現に必要な要素でもあります。
まとめ
プログラミング必修化の目的は、AI技術をはじめとした高度な社会に備えた人材育成です。また将来的にIT人材の不足も予想されます。子供たちにとっては将来の選択肢を広げるメリットもありそうです。
難しそうというイメージにとらわれず、まずは小さな頃から少しずつでもプログラミングに触れ合ってみてはいかがでしょうか。