ICTって聞いたことありますか?実は皆さんが毎日使っているスマホやパソコンもICTの一部です。
ICTは、Information and Communication Technologyの略で、日本語では「情報通信技術」と言います。簡単に言えば、インターネットやパソコンを使った便利なもののことです。
例えば、こんなものもICT技術です。
- スマホでSNSやネットショッピング
- スマートスピーカーで音楽を聴いたり、情報を調べたり
- オンライン会議
- 病院の予約システム
- 学校のオンライン教材
ICT技術は、私たちの生活を便利に、豊かにする力を持っています。そして、これからますます重要になっていくと言われています。そこで学校では、将来活躍できる人材を育てるために、ICT教育という取り組みが始まっています。
この記事では、ICT教育とは何か、注目される背景やメリット・デメリットなどを解説します。
ICT教育とは?目的や導入の背景をわかりやすく解説
ICT教育とは、デジタル技術や機器を活用して行う教育・学習の手法です。簡単に言えば、IT技術を使って、もっと良い教育をしようという取り組みです。
昔は、黒板とチョークで授業するのが当たり前でしたが、今は電子黒板やタブレットを使って、よりわかりやすく、生徒が興味を持ちやすい授業ができるようになっています。
例えばこんなこと
- インターネットで情報を調べてまとめる
- プログラミングでゲームやアプリを作る
- オンラインで世界中の人と交流する
ICT教育は、ただ単にパソコンの操作を覚えるだけではありません。情報を活用する力や、問題を解決する力、創造力などを育むための教育なのです。
ここではICT教育が推進される理由やその背景、実際の教育現場での実践例を解説します。
それぞれ順に解説します。
ICT教育が積極的に推進される背景や必要とされる理由
近い将来、私たちの生活や社会の仕事はますますICTに頼ることになりそうです。自動運転、スマートホーム、医療AIなど、様々な分野でICT技術が革新をもたらしています。そこで我が国は文部科学省を中心に、子供たちが未来の社会で必要な技術を習得し世界で活躍できるように、ICT教育を推進しています。
我が国が目指すSociety 5.0時代に必要な人材の育成
Society 5.0は、2016年に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」において内閣府が提唱した概念です。日本が目指す未来社会の姿として記のように定義されています。
サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会
引用元:内閣府「Society 5.0」
Society 5.0時代を生き抜くためには、従来の知識・技能に加え、AIやロボットと共存できる能力が求められます。ICT教育は、単にパソコンやタブレットなどの機器を導入することではありません。情報活用能力、問題解決能力、創造性、コミュニケーション能力などの21世紀型スキルを育成するための教育です。
文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」
GIGAスクール構想は、全国の児童生徒一人ひとりに端末と高速ネットワークを提供し、未来を担う子供たちが社会で活躍するために必要なスキルを育む教育環境を実現する取り組みです。
現代社会は、情報技術の発展により大きく変化しています。将来、子供たちが社会で活躍するためには、従来の画一的な教育だけでは対応できません。ICT教育を活用し、一人ひとりの個性や能力に合わせた学びを提供することで、多様な子供たちを誰も取り残さない教育を目指しています。
増え続ける教員の負担軽減
教員の負担軽減は、今や急務となっています。授業の準備やテストの作成・採点、部活の指導など、教員の仕事は多岐に渡ります。その中でクオリティの高い教育を提供するのは大変なことです。
そこで期待されているのが、ICT教育の活用です。ICT教育が普及すれば、教員の負担が減って、より良い教育ができるのではないかと期待されています。
具体的には、教材作成やプリント配布をデジタル化することで、時間と労力を節約できます。オンラインテストシステムを使えば採点にかかる時間も短縮できるほか、個別分析機能で生徒の理解度も把握しやすくなリ生徒一人ひとりに合った個別指導も効果的に行えます。
また、校務連絡や研修資料などをオンラインで共有すると教員同士の情報共有もスムーズになり、オンライン連絡帳や学習管理システムを使えば保護者との連携も強化され、家庭学習のサポートも充実させることができます。
教員にとっては校務の手作業が減少し、生徒と触れ合える時間を増やせるメリットもあります。
コロナ禍の社会的混乱に危機感を覚え導入が促進
ICT教育の必要性がますます高まっていますが、その背景には、実は新型コロナウイルスの影響も大きく関係しています。
2020年3月、全国一斉休校という経験は、私たちにとって忘れられない出来事となりました。その後も、学校内で感染者が発生するたびに学級閉鎖や休校を余儀なくされ、子どもたちの学びの機会が奪われてしまう状況が続きました。
このような状況下で、教育現場ではICT教育の重要性が改めて認識されました。オンライン授業や情報共有など、ICTを活用することで、場所や時間に縛られない学習環境を実現し、子どもたちの学びを止めないことが可能になったのです。
政府は「GIGAスクール構想」を推進し、全国の小中学校に1人1台のパソコンやタブレット端末を配布する取り組みを進めていました。この取り組みは本来2023年度までに完了する予定でしたが、新型コロナウイルスの影響を受け、多くの自治体で前倒し実施されました。
小学校ではプログラミング授業が必修化!ICT教育の実践例
2020年より、小学校でのプログラミング教育が必修化されました。これは将来の社会を担う子どもたちに、論理的思考力や問題解決能力、創造性を育むことを目的としたものです。
ですが、プログラミングと言ったら難しいコードをひたすら書くようなイメージを持つ人もいるかもしれません。実は、小学校でのプログラミング教育は、遊びを通して楽しみながら学べるように工夫が凝らされています。
全国各地では、様々なICT教育の実践が行われています。
- ゲームでプログラミングを学ぶ
- プログラミングで算数を学ぶ
- プログラミングでロボットを動かす
これらの実践例はほんの一例です。 全国各地の学校では、それぞれの地域や児童生徒のニーズに合わせて、様々なICT教育の実践が行われています。
プログラミング教育は、子どもたちの未来を拓く鍵となる重要な取り組みです。 今後、さらに多くの学校で、子どもたちの創造性を育むICT教育が進められていくことでしょう。
ICT教育の効果は?メリットを詳しく解説
ICTを活用した教育は、様々なメリットをもたらします。従来の教育方法と比較して、ICT教育には以下のような利点があります。
それぞれ順に解説します。
学習意欲や関心を向上させて能動的な学習を促進
これまでの詰め込み型授業では、生徒の興味・関心を引くのが難しかったり、理解が進まないまま進んでしまうケースがありました。しかし、能動的な学習を取り入れることで、生徒自身が主体的に学習に取り組むことができ、学習意欲や関心を向上させるだけでなく、様々な能力を育むことができます。
例えば、まるで本物のようなVR実験で、体全体で科学を体感したり、オンラインゲームを通して楽しみながら英語を学んだりすることで、学習がもっと楽しくなります。
また、生徒自身がSDGsや環境問題などのテーマを設定し、調べたり、取材・インタビューしたり、発表したりすることで、探究心や情報収集能力、情報分析能力を育みます。主体的に課題解決に取り組むことで、論理的思考力も身につきます。
生徒一人ひとりに合わせた学習を実現する
従来の画一的な授業では、生徒一人ひとりの理解度や興味・関心に合わせた学習が難しく、学習効果が十分に得られないケースがありました。授業について行けず、置いてけぼりの生徒も一定数生まれてしまいます。しかし、アダプティブラーニングの登場により、そんな課題を解決し、一人ひとりに最適な学習スタイルを実現することが可能になったのです。
アダプティブラーニングとは、AIやビッグデータなどの技術を活用し、学習者の理解度、進捗状況、興味・関心などを詳細に分析し、最適な教材、学習内容、指導方法を提示することで、一人ひとりにぴったりの学習プランを提供する革新的な学習方法です。
まだ発展途上の学習方法ですが、今後はさらに進化し、より高度な個別最適化が可能になると考えられています。将来的には、学習者の潜在能力を引き出すような、より画期的な学習スタイルも実現できるかもしれません。
協調性・コミュニケーション能力の向上とグローバル人材の育成
グループワークやオンラインディスカッションなどの活動を通して、協調性やコミュニケーション能力を育むことができます。オンラインツールを用いた課題解決プロジェクトや、グループディスカッションなどを通して、仲間と協力し、課題解決に取り組む経験は、将来社会で活躍できる人材となるために不可欠なスキルを育むのに役立ちます。
例えば、ロボットコンテストで仲間と協力して大会に出場したり、オンラインゲームを通して仲間と協力して戦略を立てて勝利を目指すなど、子供が興味を持ちやすいものから取り組んでみるのも◎。
また、インターネットやオンラインツールを活用することで、世界中の人々と交流したり、海外の情報を収集したりすることができます。オンライン英会話でネイティブ講師の英語に触れたり、海外の学校との交流プロジェクトなどを通して友達を作ったり、異なる文化や価値観を持つ人々とコミュニケーションを取ることで、国際社会の一員としての自覚を育むことができます。
情報活用能力と情報モラルを育む
インターネットには、たくさんの情報が溢れています。でも、本当に必要な情報を見つけることは大人でも難しい作業と言えます。ICT教育では、検索エンジンの使い方や情報源の信頼性を判断する方法などを学び、必要な情報を効率的に見つけ出す力を養います。また、インターネットの情報は、全てが正しいわけではありません。中には、間違っていたり、偏った見方をしている情報もあります。情報の信頼性や客観性を判断する能力を身につけ、真偽を見極める力を養います。
情報収集や分析で得た知識を、文章や画像、動画などを用いてわかりやすく伝えることは、現代社会でとても重要です。ICT教育では、プレゼンテーションツールやSNSなどを活用した情報発信能力を磨き、自分の考えを効果的に伝えるスキルを習得することができます。
情報社会では、情報モラルも大切です。著作権法や個人情報保護法などの法律を守ったり、誹謗中傷やネットいじめなどの問題について理解を深めたりすることが重要です。情報倫理に関する授業やネットリテラシー教育などを通して、安全かつ健全な情報活用スキルを身につけることができます。
問題解決能力・創造性の向上とイノベーション人材の育成
子供にとって、自分で考え、試行錯誤することは、何よりも重要です。ゲームやアニメーションを作りたい!と思ったら、プログラミングを使ってアイデアを形にしてみましょう。思い通りに動かないときは、原因を探って修正を繰り返すことで、問題解決能力が自然と身につきます。
また、プログラミングに取り組むことは、子供たちの創造性を存分に発揮できる場でもあります。与えられた課題に対して、自由な発想でアイデアを考え、形にしていくことで、想像力や独創性が刺激されます。例えば、ロボットを作ってみたい!と思ったら、思い通りの動きや音、デザインを実現するために、様々な方法を考え、試していくことで、独創的なアイディアや創造性が育まれます。
問題解決能力と創造性を兼ね備えた子供たちは、将来、社会や産業に貢献できる人材へと成長していくかもしれません。新しいアイデアや技術を生み出し、イノベーションを起こす原動力となる可能性を秘めています。
時間や場所にとらわれず学習できる
従来の教育では、時間や場所の制約、画一的な指導などが課題となっていました。しかし、ICT教育の登場により、これらの課題を克服し、より質の高い教育を提供することが可能になりつつあります。
ICT教育の大きなメリットは、時間や場所に縛られずに、効率的に学習を進められることです。オンライン教材や動画を活用することで、自分に合ったペースで学習を進めることができ、忙しい現代社会においても、スキマ時間を有効活用して学習することができます。
さらに、ICT教育は、地域や家庭環境によって教育機会に恵まれない子どもたちにとっても、大きな可能性を秘めています。インターネット環境さえあれば、世界中の質の高い教育リソースにアクセスすることができ、場所や環境に左右されることなく、学習を進めることができます。
ICT教育のデメリットはメリットと隣り合わせ
ICT教育には、学校教育の質の向上や子どもたちの学習効果の向上に大きな可能性を秘めています。しかし一方で、その導入に伴う課題や懸念点はメリットと表裏一体です。
それぞれ順に解説します。
高額な費用問題や情報格差の拡大
ICT教育を導入するには、インターネット環境や機器、教材などのインフラ整備が必要となります。しかし、その費用は安いと言えず、地域や家庭の経済状況によって、すべての子どもたちが平等に恩恵を受けられる状況とは限りません。
このような状況では、経済的に恵まれない家庭の子どもたちは、ICT教育の恩恵を受けられない可能性があります。すべての子どもたちが平等に学習でき、情報格差を生まない環境を実現するためには、費用負担を軽減するための対策が不可欠です。
教員の適切な指導には高いスキルが必要
ICT教育を効果的に導入するためには、教員のスキルアップとサポート体制の充実が不可欠です。しかし、現状では教員の負担増加が懸念されています。
従来の授業とは異なり、高度なICTスキルと指導力が要求されます。教員は、単にICT機器を使いこなせるだけでなく、生徒一人ひとりの理解度や興味・関心に合わせた個別指導や、効果的な学習環境の構築など、様々な役割を担う必要があります。
しかし、多くの教員は、限られた時間の中で授業の準備や教材作成、生徒指導などの業務をこなしており、ICTスキルの習得に十分な時間を割くことが難しい状況です。また、ICT機器の操作や指導方法に関する研修機会や、サポート体制の不足なども課題となっています。
情報モラル不足やネット依存症の危険性
ICT教育は様々なメリットがある一方、情報モラル不足やネット依存症などの課題も伴います。子どもたちが安全かつ健全にICT機器を活用できるよう、適切な指導と環境づくりが不可欠です。
インターネットには、有益な情報だけでなく、虚やデマ、有害な情報も存在します。子どもたちが情報源の信頼性を判断し、適切な情報と不適切な情報を区別できるよう、情報リテラシー教育を積極的に推進する必要があります。
また、インターネットやゲームなどの使い過ぎは、集中力の低下や睡眠障害、運動不足など、心身に様々な悪影響を及ぼします。子どもたちが健全なICT機器との付き合い方を身につけるよう、家庭でもルールを作ったり、オフラインでの活動を積極的に取り入れたりすることが重要です。
想像力の低下という落とし穴
インターネットは、情報収集に非常に便利なツールです。必要な情報はすぐに調べられ、答えも簡単に手に入れることができます。しかし、この便利さの裏側には、想像力低下の危険性が潜んでいるのです。
想像力とは、与えられた情報から推測したり、創造したりする能力です。問題解決や新しいアイデアを生み出すためには、想像力は不可欠な能力です。
しかし、何でもすぐに調べられる環境では、自分で考える必要がなくなり、想像力を働かす機会が減ってしまいます。答えだけを手に入れてしまうと、思考力はどんどん鈍くなり、創造力は低下してしまうかもしれません。
人間関係の希薄化
ICT教育は、時間や場所に縛られず、効率的に学習を進めることができるという大きな利点があります。しかし、便利な反面、対面でのコミュニケーション機会が減少してしまうという課題も存在します。
人間は、言葉だけでなく、表情や声のトーン、身振り手振りなど、非言語的なコミュニケーションを通して、相手を理解し、信頼関係を築いていきます。特に子どもたちにとって、こうした対面でのコミュニケーションは、健全な成長に欠かせません。
ICT教育を効果的に活用しながら、対面のコミュニケーションの場も確保することが重要です。例えば、オンライン授業と対面でのグループワークを組み合わせたり、放課後や週末に友達と集まって遊んだりすることで、バランスのとれた学習環境を実現することができます。
まとめ
変化の激しい現代社会を生き抜くためには、知識を詰め込むだけでは足りません。自ら考え、行動し、新しい価値を生み出すイノベーションを起こせる人材こそが求められています。
ICT教育は、まさにこの課題を解決する鍵となる可能性を秘めた革新的な教育方法です。従来の画一的な授業では実現できなかった、一人ひとりの個性を活かした学習や、主体的な学びを通して、創造性や問題解決能力、情報活用能力といった、将来社会で必要不可欠なスキルを育むことができます。
しかし、ICT教育はまだ発展途上にあり、課題も存在します。教員の指導力不足や教育格差、情報モラルの問題など、克服すべき課題は山積しています。これらの課題を解決するためには、政府・教育機関や民間企業、保護者、地域社会が一体となり、ICT教育をさらに発展させていくことが望まれます。